抗うつ剤の内服中のお酒を飲んではいけないことは分かった。
でも、どうしても飲みたい・・・
あるいは、職場で飲まなきゃいけない状況にある・・・
こんな場合、どう対処したらいいでしょうか?
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Ⅰ.我慢
身も蓋もない言い方ですが、やはり「我慢」が基本になります。お酒を我慢することで病気は早く治ります。
あなたの病気が治ることで喜んでくれる人がたくさんいるはずです。その人たちのためにも、早く治したいですよね。
頑張って我慢しましょう!
Ⅱ.抗酒剤を使う
あまり知られていないのですが、抗酒剤というものがあります。これは、「お酒を飲めなくするお薬」です。
いくつか種類があるので紹介します。
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ノックビン、シアナマイド
昔からある抗酒剤です。
ノックビンやシアナマイドを飲んでからお酒を飲むと、少量の飲酒で顔面紅潮、血圧低下、心悸亢進、呼吸困難、頭痛、悪心、嘔吐、めまいなどが生じるようになります。
これらのお薬はアルコールを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素を阻害することで、アルコールを分解しにくくし、少量のアルコールで体がまいってしまうようにするのです。
懲罰的な方法ですが、飲酒する自分を自制したいんだけど、つい欲求に負けてしまう、という人には効果があります。
これらの薬を服用してしまえば、お酒を少し飲んだだけで不快症状が出現しますから、実質、お酒を飲めなくなります。
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レグテクト
中枢神経のNMDA受容体を阻害したり、GABA-A受容体を刺激することで「飲酒欲求を抑える」と言われているお薬です。
ノックビンやシアナマイドのように懲罰的に飲めなくするのではなく、「飲酒したい気持ちが少なくなる」というものです。
まだ発売されてから浅いため、データの蓄積が少ないお薬ですが、効果は強くはないと感じます。
「あともうひと押しがあれば、お酒を我慢できるんだけど・・・」といった方にはいい適応かもしれません。
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Ⅲ.ドクターストップだと言う
病名などは言いずらいかもしれませんが、「医師から飲酒を止められている」と言ってしまいましょう。医者のせいにすることで、あなたが責められる可能性を少なくできます。
残念なことに、お酒を飲まないと「付き合いが悪いやつだなぁ」と嫌味を言ってくる人が未だにいます。そんな時は、自分のせいではなく医者のせいで飲めないんだと責任を医師になすりつけちゃって構いません。
「次、お酒を飲んだことが判明したら出勤停止にしますからね、って医師から脅されてるんです」
くらい言っちゃっても、私が主治医なら全然許します。ここまで言えば、たいていの人は無理に勧めてこないでしょう。
無理して飲ませてしまったら、その人のせいで出勤停止になるわけですからね。お酒を勧めた人は「医師の治療を故意に妨害した」ことになります。
会社の産業医体制がしっかりしているのであれば、産業医にも事前に相談しておくと、より安心です。
Ⅳ.周囲の協力にしてもらう
飲酒を我慢するのは、自分の意志との戦いになります。でも、人間一人の意志というのは弱いものです。自分の意志だけで折れそうな時は、周囲にも協力してもらいましょう。
例えば私の患者さんで、夫がうつ病になって抗うつ剤を内服したのを機に奥さんも飲酒をやめた、という家庭がありました。
この夫婦は二人そろってお酒好きで、毎晩二人で晩酌するのが楽しみだったそうです。
そんな中、夫がうつ病になってしまい、抗うつ剤が始まったので飲酒ができなくなりました。
妻は飲酒できますが、夫の前で飲酒をしちゃったらあまりに酷だと思ったそうで、夫が治るまで一緒にお酒を我慢することを決めたそうです。
妻がお酒が大好きなことを知っている夫は、妻のこの行動にとても心を打たれ、それが断酒を続ける大きな力になったそうです。
「一日でも早く治して、妻とまたお酒を飲みたいですね」
そうおっしゃっていた彼は、順調に改善し、今では通院終了となっています。きっと奥様とおいしいお酒を飲まれていることでしょう。
周囲の協力って、とても大きいですよ。
Ⅴ.どうしても、という時はお酒と抗うつ剤のピークをずらすこと
これは本当にやむを得ない場合の方法です。
飲酒をしないことが原則なんですが、本当にどうしてもやむを得ない事情があってお酒を飲まなくてはいけなくなった場合の話です。
できれば飲酒してほしくないのですが、どうしてもやむを得ない場合、まずは可能な限り少量の飲酒となるよう努めてください。
そして、焼石に水程度の工夫ですが、抗うつ剤の血中濃度のピークとお酒の血中濃度のピークの時間を出来る限り離すようにしてください。
ちなみにジェイゾロフトはだいたい内服後6-10時間で血中濃度はピークになります。お酒は飲む量にもよりますが、飲酒後30分から2時間くらいがピークです。
ここから計算して、お互いの血中濃度のピークをなるべく離してください。ピークが離れれば離れるほど、相互作用の影響はまだ小さくなります(それでも0にはなりませんが・・・)。
例えば、夜20時から飲み会をする予定であれば、アルコールの血中濃度のピークは21-23時ごろと予測できます。となるとジェイゾロフトのピークを朝9-11時ごろにすれば、理論上は一番被害を少なくできますね。