1.重症うつ病
抗うつ剤は軽症例においてはプラセボ(偽薬)と治療成績に差がないという報告もあります。
しかし逆に重症うつ病においては、抗うつ剤とプラセボは抗うつ剤の方が有意に治療成績が良くなります。
ここから、重症のうつ病に対しては抗うつ剤はある程度積極的に用いるべきだと言えます。
ちなみに重症の定義も明確には定まっていないのですが、おおむねの感覚としては、
「うつ病の症状があり、日常生活に大きな支障をきたしている状態」
と考えていただくと良いと思います。
具体的には、うつ症状によってほとんど仕事に行けない、
全く動けない、生活に必要な活動がほとんど出来ない、などが該当します。
2.メランコリー親和型によるうつ病
メランコリー親和型うつ病の方に、抗うつ剤が比較的よく効く事は昔から経験的に知られていました。
メランコリー親和うつ病は「内因性うつ病」とも呼ばれ、メランコリー親和型性格を持つ方が発症するうつ病の事です。
【メランコリー親和型性格】
・ルールや秩序を守る、几帳面
・自分に厳しく、完璧主義、責任感が強い
・他者に対しては律儀で誠実。衝突や摩擦を避ける
などの「秩序志向性」を持つ性格傾向。
もちろんメランコリー親和型であっても軽症であった場合などでは、まずは薬以外の治療も検討すべきです。
しかしメランコリー親和型は比較的薬が効きやすいことを考えると、
他のタイプのうつ病と比べればより積極的に薬を導入しても良いのではないかと思われます。
ちなみに、メランコリー親和型とそれ以外のうつ病で抗うつ剤の効きに差はない、という報告もありますので、
この意見には批判的な専門家もいると思います。
しかしうつ病の症状は様々であり、同じうつ病でも症状はによって大きく異なります。
そのため、教科書的にキレイに判断できないような事も多々あり、
専門家であっても抗うつ剤を使うべきかの判断に迷ってしまうケースはあります。
例えば、明らかに重症のうつ病である場合は、抗うつ剤を使うべきかについて大きく悩むことはあまりないでしょう。
しかし臨床をしていて、判断に迷うケースの1つに、
「一般的には抗うつ剤の適応にならないけども、その他の治療が導入できない時」
があります。
例えば軽症うつ病の患者は、一般的には安易に抗うつ剤から始めるべきではなく、
まずは精神療法(カウンセリングなど)や環境調整から始めましょうと言われています。
もちろんこれは正論でしょう。
しかし、
「カウンセリングは費用面・時間面から受けることができない」
「カウンセリングで認知の修正をしようとしても、なかなか日常で実践できない」
「睡眠をしっかりとるという生活指導がなかなか実行できない」
というような場合が、臨床では少なからずあります。
薬以外の治療が望ましいのだけど、その薬以外の治療がなかなか導入できない、
あるいは患者さんに実践する余裕がないような場合です。
この場合、薬を使わずに経過を見ていても改善はなかなか得られないでしょう。
それでも「この患者は抗うつ剤の適応ではないから」とかたくなに抗うつ剤の服薬を避けることは本当に正しいのでしょうか。
こういった場合、
「本当は抗うつ剤はあまり推奨されないけど、やむを得ない」
と考えて抗うつ剤を処方する先生も多いと思います。
これはある程度仕方のないことでしょう。
「本当は抗うつ剤を使わないで治すのが一番いいのだけど、カウンセリングはお金の面で受けられないということですし、
なかなか生活習慣の改善も行えない日が続いてますので、抗うつ剤を使ってみるのはどうでしょうか」
と患者に抗うつ剤を処方する理由をしっかりと説明した上で処方を検討することは、現実的には十分検討される選択肢になります。
一般的な「抗うつ剤と安易に使うべきでないケース」であっても、患者個々の事情により、抗うつ剤が検討されるケースはあり、
一概に
「この症例に抗うつ剤を使うのは正しい」
「この症例に抗うつ剤を使うのは間違っている」
と言えるものではないのです。